①基本情報
タイトル:不動産投資専門税理士が明かす 金持ち大家さんが買う物件 買わない物件
出版社:双葉社
発行日:2017年1月
価格:1,030円
ページ数:184
著者:稲垣 浩之
不動産投資専門税理士が明かす 金持ち大家さんが買う物件 買わない物件 |
②著者の立場
著者は不動産投資専門の税理士であり、コンサルタントです。1999年に税理士登録、2002年より稲垣浩之税理士事務所を開業しています。私も不動産セミナーに参加をする中で、稲垣先生のお話を何回か聞いたことがありますが、歯切れも良く話の分かりやすい先生だった印象があります。
これまで2,500人のサラリーマン大家向けに「正しい不動産投資」の啓蒙活動をしており、不動産投資に関する多くの情報を持っておられます。著書の中でも、様々な不動産投資のパターンを分析しているパートなどもあります。
③書評
先にお伝えすると、私の感想としてはとても優れた本だと思います。大きく3つの理由があります。
1つ目は、税理士という税金やお金の計算のプロフェッショナルですので、どんぶり勘定ではなく、正確に投資(というかビジネスとして)儲かる・儲からない、の視点で物事を見ています。また、税引き後の最終的な儲けを考えておられます。
2つ目は、ご自身の経験のみならず、2,500人のサラリーマン大家さんの情報をデータとして持ち合わせており、
3つ目は、第1章の中で「何のために不動産投資するかが明確な人」を金持ち大家さん成功の条件に入れている通りで、手段先行ではなく、目的・目標ありきで物事を考えています。そのため、あらゆる説明が理にかなっており、また、変な偏りがありません。サラリーマン大家さんの事例紹介コーナーがありますが、規模や利回りや手法では評価をしておらず、目的・目標に向かって着実に向かっているかどうか、で評価をしており、極めて好感が持てました。
以下、全体の流れです。
第1章 不動産投資の「いま」を知らないと「金持ち大家さん」にはなれない
第2章 「金持ち大家さん」が買う物件買わない物件
第3章 「金持ち大家さん」の不動産業者との付き合い方
第4章 「金持ち大家さん」は知っている、銀行のホンネ
第5章 「金持ち大家さん」の上手な税金との付き合い方
第1章は、サラリーマン大家さんにアンケート調査をとった結果を分かりやすく記述しています。35歳~48歳で全体の6割を占めている、年収は500~1500万円の方が中心、個人所有が6割、不動産投資歴は3年未満が多い、物件総額は1億円未満が多い、ローンでかう割合が8割以上、金利は2%以下が半数近い、など多少調査対象の偏りは出ていると思いますが、昨今の不動産投資のプレイヤーの輪郭をイメージするには十分なアンケート調査結果です。
また、イールドギャップの言葉の解説なども丁寧に入っていました。イールドギャップからの説明で、昨今不動産投資の利回りは下がっているが、金利がそれ以上に下がっているケースもあり、始めるタイミングとして今は悪くない。と説明をしています。この辺り、稲垣先生は不動産業者のセミナーに出入りしておられ、また消費税還付含めてご自身のビジネスもありますので、不動産投資は止めよう、とは書きにくいお立場ではあると思います。
そして、1章の中でも特に参考になるのが成功条件3つ。です。
1.何のために不動産投資するかが明確な人
2.業者や銀行からどう見られているか知っている人
3.融資審査の必要書類をすぐに用意できる人
多少、1.と2.3.の条件としてのレベル感が違う気はしますものの「何のために不動産投資するかが明確」であることが不動産投資に取り組む際に最重要であると信じて疑っていない私としては強く共感をしています。
第2章は、本書のタイトルにもなっているメインディッシュです。金持ち大家さんと言える5人のサラリーマン大家さんを例にとって、
・どのような取り組みをしているか(地方か都心か、一棟か区分か、など)
・年間キャッシュフロー
・成功のポイント
・今後買いたい物件、絶対に買わない物件
・稲垣先生が考える注意ポイント
を1事例5ページ。5事例25ページにわたって紹介をしています。
本書の最も秀逸な部分です。「今後買いたい物件、絶対に買わない物件」は、第一章でも記載されている通りで、その人の戦略次第であるため、人によって答えが異なりますが、それを良しとして事例を紹介しています。また5事例ともにかなり異なる手法を紹介していますので、それなりにパターン分析に使える事例になっている点も、流石という印象です。読まれる際には、ご自身がどのパターンを目指したいかをイメージしながら読むと良いと思います。
そして、「ダメ大家」についても言及しています。
1.買う前にシミュレーションをしない人
2.買った後、何もしない人
3.家賃収入を浪費してしまう人
4.物件コレクターになる人 (選定の目線が低くなる点を指摘)
としており、耳が痛い人(私もわずかに)もいるのでは。と思います。
第3章は不動産業者の儲けのしくみと、優秀な不動産業者とそうではない業者を見分ける方法などが記載されています。また、不動産業者にはご自身のゴールを伝えた方が良い、接待するつもりで不動産業者とつきあうくらいの方が良い、と書いてあり、私も同意見です。
この章の最後は、コンサルタントと付き合うべきだ、と記載されております。不動産業者はポジショントークをする。日本のFPは独立系が少ないため、(税理士を含めて)中立のコンサルと付き合うべきだ、と言っておられます。
第4章は、金融機関の昨今の情勢と融資に対するスタンスや、金融機関が不動産投資家や物件をどのように評価しているのか、の記述があります。全般分かりやすいのですが、少し面白かったのが「汚い通帳」の説明でした。家賃が入ったらすぐに引き出してしまっていたり、返済日の前日や直前に不足分を入金しているような通帳は「汚い通帳である」と書いてありました。
第5章は、税理士による著書ですので得意分野です。上手に税金と付き合うために経費の考え方や、比較を添えての法人化の判断基準、などを丁寧に記載してあります。
この章だけで、「経費計上」「税務調査」「加算税」「減価償却費」「耐用年数」「定額法」「消費税還付」「現物出資」「売却益」「長期譲渡」まで、不動産投資に関わる全般的な税金絡みの知識を一気に身に着けることが出来ます。また、不動産投資専門税理士の見解のため、疑いなく読める安心感もあります。
個人的にはかなり良い一冊だと思いました。20冊以上の書評を作成した後に、再現読むべき5冊を選定しようと思いますが、前提でこの本は5冊の中に入ってきます。
④評価(5段階)
専門性 ★★★★☆ 専門的知識があり、丁寧に説明してくれます。
正確性 ★★★★☆ 事実に基づいて書かれており正確です。
再現性 ★★★★☆ 再現できない部分は少ないように思われます。
中立性 ★★★☆☆ お立場的な限界は少しだけ感じる部分はありました。
ズバリ!おすすめ度 ★★★★★ この本は読んだ方が良いと思います。
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※本記事は、2020年3月時点での記事です。 本ブログでは、環境変化に対応するため全記事を定期的に更新しています。
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